MRI新機能を用いた神経疾患患者の病態研究

ページ番号1002399  更新日 令和5年4月13日 印刷 

名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 第2神経内科
堀本 佳彦

診療機器の進歩には目を見張るものがあるが、当院でも2018年の3T MRI導入により、いくつかの新たな撮像法が実施可能となった。その中でニューロメラニン画像およびテンソル画像に着目し、実臨床への活用を探る目的での検討を加えた。ニューロメラニン画像では、黒質および青斑核の描出が報告され、計測した信号値を用いた検討がみられるが、実臨床に用いるという観点では現実的でないため、臨床実用に耐え得る評価法の策定をニューロメラニン画像における第一の課題と考え、青斑核について診察室で判定可能な評価法を提案し、これと臨床所見としての起立性低血圧との関連を検討した。また、黒質ニューロメラニン信号の根拠を明らかにすることを第二の課題と考え、線条体ドパミン機能画像との比較を行った。テンソル画像では、錐体路の観察に用いられた検討などがなされているが、視野との関連を検討した報告は、あまり類をみない。脳神経疾患に伴う同名半盲とテンソル画像による視放線の描出との関連の検討を、テンソル画像における第一の課題とした。

青斑核MRI ニューロメラニン画像の定量的評価として研究目的に汎用されている Contrast Ratio (CR)と、今回臨床目的に提案した視覚的定性評価との間には、39症例を対象として有意な相関を認め、簡便で臨床実用性の高い評価法として、視覚的定性評価の妥当性が示せた。起立性低血圧との関連では、CRと視覚的定性評価のいずれも有意な関連を示さなかった。

MRI拡散テンソル画像による視放線の描出の検討では、健常対照2例の視放線は良好に描出された。視野検査で欠損が確認された2症例は、テンソル画像でも患側視放線の欠損が疑われ、視野欠損が不明瞭な2症例では、視放線は両側ともに描出された。拡散テンソル画像による視放線の観察は、視機能評価の他、視野欠損の原因病変検索などに、有用性が期待された。

黒質ニューロメラニンMRIとドパミン機能画像の関連の17症例を対象とした検討では、黒質ニューロメラニン断面積は、 [18F] fluorodopaの線条体集積量との有意な相関を示した (r = 0.568、p < 0.001) が、[11C] racloprideの線条体集積量との相関は認めなかった (p > 0.05)。多様な疾患と幅広いパーキンソニズムの重症度を有する症例群を対象として、黒質ニューロメラニンとドパミン産生との相関を示すことができ、今後ニューロメラニンMRIの研究応用および臨床実用を進める上で、根拠となり得る重要な成果であったと自負している。

青斑核および黒質のニューロメラニン画像、視放線テンソル画像はともに、研究目的のみでなく、臨床実用上も有用性が示された。