脳循環代謝定量測定法([15O]GAS-PET)における完全無採血定量法の導入に関する基礎的検討

ページ番号1002027  更新日 令和3年5月24日 印刷 

名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 放射線診断科
林 絵美

 [15O]GASを用いて、脳血流量(cerebral blood flow; CBF)[ml/min/100g]、酸素消費量(cerebral metabolic rate of oxygen; CMRO2)[ml/min/100g]、酸素摂取率(oxygen extraction fraction; OEF)[%]、脳血液量(cerebral blood volume; CBV)[ml/100g]などの脳循環代謝機能を定量するポジトロン断層撮影(Positron Emission Tomography, PET)検査は、動脈採血を行って血液中の放射性薬剤濃度データ(Arterial Input Function, AIF)の取得が必須である。近年、動脈採血を行わずにPET画像のみから動脈採血に匹敵するAIFを求め、非観血的に脳循環代謝定量値を得る完全無採血定量法(無採血法)が国立循環器病研究センター(以下国循とする)で開発された。本事業は、その技術を当センターに導入し、無採血法の運用および解析結果に対する妥当性の基礎的検討を行った。

初めに技術導入に際し、当センターの画像データに適応させるための解析プログラム調整を行い、次に解析過程に入力するパラメータの最適化、最後に無採血法によって得られるAIFの精度検証および、動脈採血を伴って実測した脳循環代謝定量値をゴールドスタンダードとして、無採血法による推定定量値の精度限界を明らかにした。

この技術は、解析過程においてPET画像上の内頚動脈と小脳のデータを利用するが、小脳の測定領域を小脳髄質にすることでAIFの精度が向上することが本事業により示された。無採血法によるAIFは、動脈採血のAIFとよく一致した。無採血法の推定定量値は、脳血流量、脳血液量、脳酸素代謝量は有意な差は認められなかったものの、その誤差の標準偏差(Standard Deviation, S.D.)は±20%程度であった。脳酸素摂取率は推定定量値が6.6%低値を示し、有意差が認められ、誤差S.D.は±10%程度であった。しかしながら、無採血法の推定定量画像は、絶対定量画像と相対分布画像はよく一致し、健側・患側比や、左右比、小脳比などの相対数値は有意差なく誤差S.D.は3%以内で一致した。

無採血法は、絶対的な定量値としての精度は±20%の誤差を生じるものの、相対分布は一致し、直線性のある相対値が得られ、視覚的にも同等コントラストの画像が得られることが明らかとなった。

動脈採血を困難とする小児や複数回に及ぶ精密な[15O]GAS-PET検査の状況下において、特に本法を用いることの意義は大きい。臨床的なPET画像診断利用の可能性やその影響など、さらなる評価が課題である。