複数のモダリティーを用いた動脈硬化症診断における総合的プラーク評価法の検討

ページ番号1000598  更新日 平成30年3月30日 印刷 

名古屋市総合リハビリテーションセンター内科部長
成田ひとみ

動脈硬化性プラークには突然破裂して血管内で血栓を発生させ、脳梗塞、心筋梗塞など血管イベントの原因となる可能性の高い不安定なプラークがある。動脈硬化疾患の予後予測に不安定プラークの検出は非常に重要であると思われるが、現在用いられているエコーやCTなどの検査法では不安定プラークであるソフトなプラークは信号強度が小さく観察が難しいという問題があった。一方不安定プラークでは、その発達過程においてマクロファージの浸潤即ち炎症が生じているとされている。そこで、本研究では、炎症性病変の検出可能であるFDGPETを用いて脳血管疾患患者の頚動脈プラークの検出を試みた。

〔方法〕
名古屋市総合リハビリテーションセンターに入院した脳血管疾患患者のうち、頚部血管超音波検査において中等度から高度の動脈硬化所見を有する頸動脈病変を持つ患者15名(薬物治療中の糖尿病、悪性新生物の既往歴、関節リウマチなどの炎症性疾患を有する症例は除外)、健常ボランティア7名の計22名を研究対象者とした。左右の頸動脈分岐部、総頚動脈部に領域を分け、88カ所の部位について以下の検討を行ない、プラーク炎症の評価を試みた。
18F-fluorodeoxyglucose(FDG)を用いたPET検査により、頸動脈のプラーク炎症検出を行った。併せて、血液検査と解剖学的位置情報を得るためにMRIを行った。PET検査で得られた画像に対して、頸動脈分岐部と総頚動脈に領域を設定し、各部位におけるFDGの集積量(SUV)を算出した。血液検査項目として、脂質と代謝系、液性免疫に関するサイトカインのIR6、血管炎症マーカーの高感度C-reactive protein、Pentraxin3を計測した。超音波検査所見よりプラークのエコー輝度、表面、石灰化などの性状で分類した。血液検査項目とプラーク性状、SUVとの関連性を調べた。

〔結果〕
両群88部位のうち合計63部位にプラークが認められた。
患者群では健常群と比較して平均SUVは高値であった。超音波検査では両群で合計63カ所の部位にプラークが認められた。健常群における平均SUV値の平均値+2SD以上を陽性(プラーク炎症検出)とした場合、63部位のうち30部位で陽性であった。それらの部位では50%に低輝度プラークが認められたのに対し、陰性であった33部位のプラークのうち低輝度を呈したものは3%のみであった。しかし陽性部位の43%ではプラークは等輝度を呈していた。

〔考察及びまとめ〕
脳梗塞、心筋梗塞などを引き起こす不安定プラークの形成には炎症が密接に関与している。近年FDGを用いたPET検査により、炎症性プラークの検出が可能になった。本事業の結果、超音波検査で血栓や粥腫つまり不安定プラークを示唆する所見を有する部位が高頻度でFDG-PETにより検出できた。しかし、そのような所見を有しない、つまり超音波検査で線維化(安定プラーク)と評価される部位でもFDG-PETで陽性となった部位があり、これについては更なる検討が必要である。
また、当センターのPETスキャナーは、CTなどの解剖学的情報を同時に撮影できない型のPET専用機である。頸動脈の位置情報は、単純にPET収集を行っても位置同定は困難である。本事業では、初めてPET-Angiography(動脈相画像:First Pass PET image)撮影を試み、PET-CTでなくても、頸動脈の位置決定が可能であることを示すことができた。
超音波検査とPET検査の所見に解離がみられたことについてさらに検討が必要と思われる。