片麻痺者が装着しやすい装具の開発-膝サポーターの検討-

ページ番号1000602  更新日 平成30年4月19日 印刷 

名古屋市総合リハビリテーションセンター企画研究室
鈴木祥江

  1. はじめに
    装具の機能において装着性は重要な要件の一つである。特に上肢機能に障害がある場合、装着が容易であることは使用者にとって重要な条件である。既成品として多種のサポーターが存在するが、片手で装着することを前提としたサポーターはみあたらない。
    片麻痺者が装着することを前提に仕様設計されたサポーターが製品化されれば、仕様検討の簡略化、製作時間の短縮など、早期治療に役立ち、さらに製作コストの軽減も可能であると考える。
  2. 目的
    本研究では、片麻痺者用の膝サポーターの開発するため、仕様を検討し、その仕様でサポーターを製作し、手順書を作成すること、開発したサポーターの完成度を被験者で評価し、今後の改良につなげることを目的とした。
  3. 対象
    開発したサポーターを実際に装着し評価するために片麻痺者と健常者を対象とした。片麻痺被験者は高次脳機能障害が存在した。
    左片麻痺者4名(男性4名 平均年齢44.3歳)Intelligence Quotientは90~60
    健常者16名(男性8名 女性8名 平均年齢40.3歳)
  4. 方法
    4-1.サポーターの製作
    製品のコンセプトは(1)片手で圧迫力、装着位置の調節が容易にできる(2)片麻痺者の障害の範囲は片側の上下肢、さらに体幹に及ぶことに配慮し安全な環境、無理のない姿勢でおこなう(3)高次脳機能障害による理解、記憶などの障害があることに配慮したわかりやすい装着方法であることとした。まず片手のみの装着方法を種々提案し、案に基づいてサポーターを試作し、研究者自身らが模擬的に装着し、改良をくりかえした、最終仕様の決定までに前評価を2回、片麻痺者(2名)でおこない、手順や装着姿勢も含めて検討し、手順書を作成した。
    4-2.サポーターの評価
    既存品と開発品の比較において、既存品筒タイプはGenuTrain(BAUERFEIND社)、開きタイプはShort-1(日本シグマックス社)とした。片麻痺者が装着する場合、患側の手で装着することは非現実的であり、健側の手で装着することになる。被装着肢は健側より麻痺側の装着の方がより困難を要すると考え、右手(健側)で左足(患側)に装着する条件で評価した。健常者も同様の条件とした。
    機能的な装着性能と理解のしやすさは装着時間に現れると考え、装着所要時間を測定した。手順書の装着方法を説明者が説明し、必要に応じて練習をした後、装着を開始。所要時間を2回計測した。サポーターの装着順序は被験者ごとにランダムとした。手順の混乱、間違い、忘れなどで続行できなくなった際には再度説明をおこない、修正に要した時間は所要時間に加えた。
    装着感、わかりやすさの主観的評価としてVAS(Visual Analog Scale)を用い、サポーター装着後、自由歩行を10メートルおこない、以下の6項目を聞き取った。3以外の項目は、左端を0、右端を10としたとき、0に近いほど良い評価である。
    1.装着しやすい 2.手順がわかりやすい 3.しまり具合(0:きつい-5:適当-10:ゆるい) 4.デザイン 5.マーカーが役立つ 6.サポート感
  5. 結果
    5-1.サポーターの仕様
    筒タイプは最大周径である踵部が通りやすいように上下端に割りを入れた。またパテラパッドの直近にループを付けサポーターの中央を引き上げるようにした。装着位置の基準となるパテラ、のびにくい材料を使用した把持する箇所は、本体と色を変えて区別して注意喚起しわかりやすくした。装着の姿勢は安定性の観点から、装着側の股関節を外旋させもう一方側の大腿部に乗せて足先からサポーターを通すことを提案し、手順書に記載した。左用4サイズを製作した。
    開きタイプは片手で左右の端をひっぱって合わせることは困難であるため、前後を逆にして大腿部にのせて仮止めをし、その後回転させ正規の向きにしてから膝位置に下げてベルトを締め直していく方法を提案した。面ファスナーの接着位置、装着位置の基準となるパテラは本体と色を変えて区別して注意喚起し、わかりやすくした。左用3サイズを製作した。
    5-2.サポーターの評価
    各タイプの既存品と開発品および健常者、片麻痺者の装着所要時間の測定とMann-WhitneyのU検定による有意差検定で、筒タイプの開発品は既存品より健常者では装着が有意に早く、開きタイプの開発品は既存品より健常者片麻痺者ともに有意に時間を要した。また開きタイプで、装着時間を健常者と片麻痺者で比較すると、開発品は両タイプともに有意に片麻痺者が時間を要した。Wilcoxonの符号付き順位検定で、筒タイプの開発品において片麻痺者は1回目より2回目で有意に早く装着した(図1)。
    主観評価の結果およびMann-WhitneyのU検定による有意差の検定で開発品の筒タイプが優れていると有意に評価された項目は装着しやすさ(健常者)、しまり具合の適切さ(片麻痺者)であった。また開発品の開きタイプにおいて優れていると有意に評価された項目は、マーカーが役にたった(健常者)、サポート感(健常者)であった。有意に劣っていると評価された項目は、開きのタイプで手順がわかりやすい(健常者)、筒タイプのデザイン性(健常者)であった(図2)。
  6. 考察
    筒タイプは装着しやすいと評価され、装着所要時間も既存品より早い傾向があった。開発品は上下端に割りがあることで足部を通し易く、また中央のループの使用することで引き上げが容易であったと推測され、開発者の工夫が反映した結果と考える。
    開きタイプの既存品は「ゆるい」と評価された。それに対し、開発品は「適度にしまる」と評価され、重要なサポーターの機能が得られていた。しかし、仮止めをしてから回旋させる方法は手順が多く、今後の課題として手順の簡略化が必要である。その際に「役立った」と評価されたマーカーを利用することは、具体的で視覚的理解が得やすい方法の一つと考える。
    これらの結果から、今回開発をおこなったサポーターは片麻痺者用膝サポーターの既成品として実用性のある仕様であると考える。今後さらに右麻痺用の開発、仕様の改良をおこない、標準仕様を確立していきたいと考える。
    今回開発したサポーターは、片麻痺だけでなく、障害、対象を限定しない汎用性のある「つけやすいサポーター」として、市販化を共同研究企業と検討中である。
グラフ1
図1 各タイプの既存品と開発品における装着所要時間の比較
グラフ2
図2 各タイプの既存品と開発品における主観評価の比較