脳損傷者の自動車運転再開における包括的評価システムの構築

ページ番号1002401  更新日 令和5年4月13日 印刷 

名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 作業療法科
吉原 理美

当センターでは、かねてより運転再開の希望のある脳損傷患者に対し、運転に関連のある神経心理学的検査、ドライビングシミュレーターを使用した運転評価を行ってきたが、運転再開に必要な手続きなどの系統だった教育機会は設けられていなかった。そこで今回、「高次脳機能障害と自動車運転ガイドブック」を作成し、運転再開を希望する脳損傷者に対する教育機会の提供を含めた包括的自動車運転評価プログラムを開始し、本プログラムが安全運転相談・臨時適性検査受検率向上に有効か明らかにすることを本研究の目的とした。

包括的評価システム運用の効果検証のため、システム運用前後で運転評価を受けた者を対象にアンケート調査を実施した。対象者は医師から脳損傷(脳血管障害、外傷性脳損傷、低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍)と診断され、自動車運転評価を受けることを指示された者であり、アンケートはシステム運用前77名、システム運用後93名に郵送した。アンケート調査の主要な調査項目は、「安全運転相談・適性検査の受検」の有無とした。

システム運用前群では77名のうち41名(回収率53.7%)から、システム運用後群では93名のうち56名(回収率60.2%)から、有効な回答が得られた。システム運用前後での2群における人口統計学的な特性に明らかな差はなかった。

安全運転相談・適性検査の受検有無については、システム運用前群の運転継続者26名のうち受検者12名(46.2%)、未受検者14名(53.8%)であった。システム運用後群では運転継続者42名のうち受検者28名、未受検者14名であったが。しかしカルテ情報では未受検と回答した14名のうち10名の診断書作成が確認できており、実質受検者は38名(90.5%)、未受検者4名(9.5%)であり安全運転相談・適性検査の割合についてシステム運用前後で有意な差を認めた(p<0.01)。システム運用後、ガイドブックを用いた説明を行っているにもかかわらず4名の方が自己判断で運転継続していることが明らかとなった。