タウプローブを用いたPETによる神経変性疾患研究その3
名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 第2神経内科
堀本 佳彦
タウはアルツハイマー病やピック病、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症などの神経変性疾患において患者脳に蓄積しており、その有無は病理診断に重要な役割を果たす。神経変性疾患患者の多くは、死後の病理解剖でようやく診断が確定する。存命中の患者脳でタウ蓄積の有無が確認できれば、臨床診断の確実性が増し、治療上も非常に有用である。国内では現在、PBB3やTHK-5351といったタウPETプローブが開発され、実用化に向け臨床研究が進んでいる。これが神経内科診療に活用できれば、病理確定診断に近い臨床診断が可能となる。当センターにおいては、使用プローブとして[18F]THK-5351を選定、開発元である東北大学から技術移転と前駆体THK-5352の提供を受け、当センター内でのTHK-5351の合成を開始した。
2022年2月までにのべ66症例を対象として、THK-5351を用いたPET撮像を実施、良好な描出が得られている。しかしながら、すでにTHK-5351のMAO-Bに対する交差活性が示され、タウ以外の要因に伴う神経変性に対しても集積を示すため、タウプローブとしての有用性は低いものであることが判明している。従って研究結果の解析においても、「タウ沈着を示すもの」ではなく、「神経変性を示すもの」と解釈することとなった。
研究継続する中では、慢性外傷性脳症における陳旧性外傷病変への集積など、興味深い症例も蓄積された。アミロイドβ沈着を描出し、陽性例では広範囲に集積を認めるPiB PETに対し、THK5351 PETは、集積分布が臨床症状の責任病変を示唆した。
THK5351集積が示唆する病変部位に、アミロイドβの沈着を伴うか否かで、アルハイマー病理か、他の背景病理かを推定することが可能であると期待できる結果であった。
THK-5351 PETは、さまざまな神経疾患の病態解明に有用な、今後も実用継続すべき研究手段であると考えられた。