水分子のターンオーバーからみた特発性正常圧水頭症の病態解明

ページ番号1001726  更新日 令和2年6月26日 印刷 

名古屋市立大学大学院 医学研究科 脳神経外科学 教授
名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 脳神経外科
間瀬 光人

10人の成人正常ボランティアと5例の特発性正常圧水頭症患者のL-P shunt術前後に、15O-H2O-dynamic PETを施行した。VOI(関心領域)は内頚動脈、上矢状洞、脈絡叢、大脳灰白質、大脳白質、基底核、側脳室、シルビウス裂、橋前槽に置き、減衰補正を行った相対的放射線活性(relative radio activity: RRA)の経時的変化を比較した。脳実質内での水分子の拡散速度の指標として、灰白質と白質が10%以内のRRA差になるまでの時間をTmixと定義して検討した。

正常例の灰白質、白質、基底核のRRAピークはそれぞれ内頚動脈の53%(22.5秒後)、43%(50.0 秒後)、55%(22.5秒後)であった。いずれもそのピーク後RRAは徐々に低下した。これに対し側脳室内、シルビウス裂、橋前槽髄液のRRAは測定終了まで増加を続け、9.5分後にはそれぞれ脳全体(灰白質+白質+基底核の平均)RRAの12.9、28.4、47.2%に達した。特発性正常圧水頭症患者では正常例に比べ、全脳ピーク時の上矢状洞でのRRAが有意に高く、基底核のRRAは有意に低かった。また上矢状洞RRAは術後正常化した。正常例では灰白質と白質のRRAの差が徐々に減少するが、その差が10%以下になるまでの時間(Tmix)は特発性正常圧水頭症患者が378秒で正常例(269秒)よりも有意に遅れた。特発性正常圧水頭症患者では側脳室内のRRAが術前には正常例よりも少なく、シャント術後に増加する傾向が見られた。しかしながら非常に限られた症例数から得られた結果であり、ばらつきも多いところに本研究の限界があり、この仮説を証明するためにはさらに特発性正常圧水頭症の症例数を増やして検討する必要がある。