PETによる特発性正常圧水頭症の病態解明に関する研究

ページ番号1001731  更新日 令和2年6月26日 印刷 

名古屋市立大学大学院 医学研究科 脳神経外科学 教授
名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 脳神経外科
間瀬 光人

本研究の目的は水分子の移動・拡散についてPETを用いて測定し、正常および特発性正常圧水頭症患者の頭蓋内の水の起源と部位別代謝を明らかにするとともに、リンパ系ドレナージの機能低下が特発性正常圧水頭症の原因であるという仮説を証明することである。10人の成人正常ボランティアと5例の特発性正常圧水頭症患者のL-P shunt術前後に、15O-H2O-dynamic PETを施行した。VOI(関心領域)は内頚動脈,上矢状洞,脈絡叢,大脳灰白質,大脳白質,基底核,側脳室,シルビウス裂,橋前槽,篩板,副鼻腔(上・中・下鼻甲介)に置き、減衰補正を行った相対的放射線活性(relative radio activity: RRA)の経時的変化を比較した。

正常群で灰白質、白質、基底核のRRAピークはそれぞれ内頚動脈の53%(22.5秒)、43%(97.5秒)、55%(22.5秒)で、その後は徐々に低下した。これに対し側脳室内、シルビウス裂、橋前槽髄液のRRAは測定終了まで増加し、9.5分後にはそれぞれ脳全体(灰白質+白質+基底核の平均)RRAの12.9、28.4、47.2%となった。上鼻甲介のRRAは髄液腔と同様増加したが、中・下鼻甲介にはその傾向はなかった。特発性正常圧水頭症群では脳実質内での水の拡散(均一化)が有意に遅延した。また側脳室内への移行が少なく、シャント術後に増加した。上鼻甲介への水分子の移行も抑制されていた。

脳実質から髄液への水分子の移動は脳室内よりくも膜下腔の方が速く、くも膜下腔の水分子の由来は脈絡叢ではない。特発性正常圧水頭症では動脈内から脳実質への水の移動、さらには脳実質内での分布(移動)速度と、側脳室内への水の移動すべてが正常例より遅く、シャント術によって改善することが示唆された。上鼻甲介では髄液腔からの水の移動を示唆する所見が得られたが、特発性正常圧水頭症ではこの移動が抑制され、病態として髄液の鼻腔リンパドレナージ障害の可能性が示唆された。今後さらに特発性正常圧水頭症の症例数を増やして検討する必要がある。