髄液のリンパ系ドレナージから見た特発性正常圧水頭症の病態解明

ページ番号1001721  更新日 令和2年6月26日 印刷 

名古屋市立大学大学院 医学研究科 脳神経外科学 教授
名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 脳神経外科
間瀬 光人

脳実質あるいは脈絡叢から髄液腔に出た水は、脳実質あるいはリンパ系ドレナージを担う周囲組織(師板、神経根、脳神経鞘、血管周囲腔、副鼻腔など)で吸収されていくと考えられる。本研究では、それらの部位に測定関心領域(VOI)を設定し、投与された15O-H2Oの放射線活性を経時的定量的に測定した。データ収集は正常ボランティア(10名)と正常圧水頭症患者(5名)を対象に行った。なおVOIの周囲には、より強い放射線活性を持つ領域(組織)が存在するため、収集データ値に対する影響(アーチファクト)については、ファントムによる基礎実験と髄液腔内へ拡散(移行)のない3つの核種(DOPA、FDG、RAC)のアーチファクトについて検討した。

基礎実験において、バックグラウンド成分は周囲放射能濃度と比例関係を示し、周囲濃度に対して一定の割合で含まれることがあきらかとなったことから、髄液腔(くも膜下腔)に近接する組織の放射線活性がピークとなったときの髄液腔の放射線活性はすべてartifactと仮定して補正を行った。その結果、3種全ての核種で髄液腔への移行はないことが明らかとなった。また、正常例において水が灰白質から白質へ移動し、脳室内のみならず、くも膜下腔へもきわめて速く移行するとともに、上鼻甲介への移行の可能性も示された。ただしデータのばらつきも多く、有意差を出すには至っていない。今後さらなる検討が必要である。