反復経頭蓋磁気刺激による片麻痺患者治療の大脳糖代謝におよぼす影響

ページ番号1002026  更新日 令和3年5月24日 印刷 

名古屋市総合リハビリテーションセンター附属病院 第2神経内科
堀本 佳彦

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)治療は、保険適応は認められていないが、臨床神経生理学会から経頭磁気刺激に関する提言、安全性に関するガイドラインが示されるなど、有効性について一定の評価がすでに得られている。当院でもパーキンソン病に対し、10年以上前よりrTMSを行ってきた。脳血管障害後遺症の片麻痺に対して、rTMSと集中的なリハビリテーションを行うことについての、安全性と有用性の検証も行われたため、当院でも脳血管障害患者に対しても治療としてrTMSを開始したが、有効性発現機序の詳細には、未解明の部分がある。その作用機序解明に向けた検討を行う。糖代謝に着目したrTMSについての研究報告、下肢rTMS前後での脳内環境の変化についての研究報告は、過去になされていない。

今回、すでに診療を目的として実施済みの検査結果を抽出し、治療効果の有無やPETにより評価した糖代謝の変化などを解析して、検討した。具体的には、当院にて rTMS とともに集中的リハビリテーションを行った脳卒中後片麻痺患者のうち、施行前後に fluorodeoxy glucose(FDG)による PET を行い、大脳糖代謝の変化を評価し得た 5例(上肢訓練 3例、下肢 2例。施行時年齢 62.6±6.1歳、脳卒中発症後 3.5±3.8年)を対象とした。機能改善との関連が想定される部位について、局所糖代謝における左右差の変化を検討した。

上肢のrTMSは対象3例中2例が有効、下肢は対象2例中1例が有効であった。上肢の有効例では、1例が上前頭回と中心前回で、他の1例も中心前回で、糖代謝の左右差に改善を認めた。無効例には、左右差の改善はみられなかった。下肢の有効例は中前頭回と中心前回に左右差改善を認めたが、無効例での改善は明らかでなかった。

上下肢とも有効例では半球間抑制の不均衡の是正が示唆され、無効例ではこの是正は明らかではなかった。半球間抑制の不均衡是正には、訓練効果との関連が示唆されたが、機能改善をもたらす機序であるとの証明には至らなかった。刺激部位の設定も含め、さらに検討が必要と考えられた。