高次脳機能障害者の行動支援ツール(携帯アプリケーション)開発と有効性の研究

ページ番号1000597  更新日 平成30年3月30日 印刷 

名古屋市総合リハビリテーションセンター生活支援課
福岡良太

名古屋市総合リハビリテーションセンター障害者支援施設では、高次脳機能障害に起因する社会的困難に対して、様々な行動支援ツール(代償手段)を検討している。本研究は携帯電話が有効な行動支援ツールとなるか検証を行ったものであり、以下の2種類の検証を行った。

1.新たに開発した携帯アプリケーションを用いた検証

今回開発したアプリケーション(以下アプリ)は、ひとつの画面に4枚の写真を分割して表示し、どれかボタンを押す度に各写真についての説明文を順番に表示するという機能を持つ。今回の検証では複数の行程がある作業場面での使用を想定しており、まず行程全体を4枚の写真として視認できることと、ボタンを押すことで行程毎の詳細な説明や注意事項を表示することができるように設定をした。
アプリを使用する場合と、通常の紙のマニュアルを使用する場合とに分けて作業を行った結果、アプリを使用することで作業時間が短縮した一群が見られた。次にそれぞれの被験者の神経心理学的検査の得点との相関性を分析したところ、言語性能力、注意情報処理能力、視覚認知能力の検査結果が低い被験者ほど、アプリの有効性があることがわかった。これらの結果については、アプリの持つ「情報を小分けして表示する」機能と、「全体行程を把握することを代替する(=ボタンを押す操作だけで工程を追える)」機能が支援ツールとして有効だったためと考えられる。

写真:携帯アプリケーションの表示画面。(4枚の写真を同時に表示でき、選択してボタンを押すと詳細な説明文などが表示される。)
Fig.1 携帯アプリケーションの表示画面
写真:携帯アプリケーションの詳細説明画面。(作業工程の詳細な説明や、注意事項が表示される。)
Fig.2 携帯アプリケーションの詳細説明画面

2.従来機能を用いた検証

動画の撮影と、撮影した動画を指定の時刻に再生するアラーム機能を組み合わせ、支援者が近くに居なくても指定の時刻に動画による行動支援を行うことができるようにした。この機能を被験者に実際の生活場面で使用してもらい、家族や支援者が日常的に行っている支援の内容や頻度に変化があるか検証を行った。
検証を進めながら、動画を再生する時刻や頻度、言葉かけの内容、一度に再生する情報量に至るまで細かく調整していった結果、家族が支援をする頻度や問題行動の起こる頻度に減少が見られた。今回の結果はこれまでの行動支援ツールで両立させることが難しかった存在想起(大切な情報が存在すること自体を知らせること)と、内容想起(大切な情報の内容を知らせること)を両立させることができたと言える。

図:携帯電話の機能を用いた行動支援ツールの説明。(動画とアラーム機能を用いて、利用する方になじみのある人物により、指示などを指定した日時に音声で再生できる。)
Fig.3 携帯電話の機能を用いた行動支援ツール
  動画に登場する人物 タイミング 動画で指示する内容
1 家族 起床後 「おはよう○○!準備して△△に行くのは××時になってからだよ!」等
2 家族 朝食後 「○○、出発するときに余分なお金は持っていかないようにね!」
3 家族 通勤直前 「○○、出発時間だよ!外では人に注意しないこと、物を拾わないこと!では行ってらっしゃい!」
4 授産施設職員 始業前 「○○さん、作業中の注意事項です。人に注意しないこと、私語をしないこと…」等

今回の二つの検証から、携帯電話という行動支援ツールが様々な有効性を発揮する可能性が示されたが、そのために必要な要素も明らかになった。それは障害状況(記憶力、言語性の理解力、注意力等)の把握や、行動支援ツールを使用する場面や状況の検討、そしてツールを使用する当事者が支援に対してどのような反応を示すかという個人的な要素も関連しており、最後にそれらの情報をカスタマイズする支援者の存在が不可欠であるということだった。本研究で得られた結果を活かし、これからも様々な支援方法の研鑽に取り組んでいきたい。